この記事は6月13日に開催された「正しいものを正しくつくる ―プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジイルのその先について」出版記念イベントのレポート記事です。


このイベントは6月14日に出版された「正しいものを正しくつくる 」本の出版イベントになります!

イベントは2部構成で、著者の市谷さんによる執筆に関するお話と、ナビタイムジャパンの小田中さんを交えてのQ&Aです。

「正しいものを正しくつくる」本とは何か

本日のテーマ

市谷さん「今日はAmazon等だと明日発売される『書籍「正しいものを正しくつくる」をインセプションデッキに載せて紹介します」

スライドp.6 より

インセプションデッキで正しいものを正しくつくる本とその執筆に関するお話をされていました。
アジャイルの本の出版イベント!という感じがしますね。
ここでは当日の内容の一部をご紹介します。

Start with Why

市谷さん「なぜこの本を書いたのかというのは

カイゼン・ジャーニーで書けなかったことがある

ことからでした」

カイゼン・ジャーニー

”われわれは何故ここにいるのか”

市谷さん「アジャイルの手法について扱っている本は増えていますが、『何をつくるべきか』の仮説検証から開発の在り方までを一気通貫に扱う書籍というのは無いんです。

そしてこの領域は5年以上自分が取り組んできたことであり、棚卸をしてまとめることで、取り組んできたことの価値が示せそうだと思っています。

あとは、「日本発のアジャイル」というのを書籍ベースでまとめたのは少ないんです。

海外発のアジャイルの話をされても、会社組織や企業風土等の環境や制約条件が違うので、遠い世界で再現不可能だと思うのです。

そこで自分たちが日本の現場で育てていったアジャイルのカタチを示したいと思ったからです

少しずつ、進めていく、手探りで森の中を進む際に一筋の光がさせればいいなぁと思っています」

告知サイトのデザイン

告知サイトの扉絵が森の中で光が一筋指しているデザインなのは、プロダクトを少しずつつくり進めていく中での一筋の光にする為に本を書かれたからなんですね!

”エレベータピッチ”

市谷さん「この本は、『何の拠り所もない不確実性の高いプロダクトづくりに臨む』、『PO(プロダクトオーナー)とそのチームの人達』に対して道しるべになるように書いています。

チームによるプロダクト開発のための本』です。

このチームというのは、プログラマはもちろんデザイナーに対してもです。

本の構成は、私が取り組んできた実践順になっています。
順番に読み解くことで現実感』があり、一部分ではなく、『仮説検証から開発の在り方まで一気通貫』している為、受け入れやすいと思います。

また、輸入本と違って『日本の現場で磨かれたアジャイル』を扱っているので、遠い世界で再起不可能ではない話をしています。

自分が書く以上、言語化しなくてはいけないので、自分が考えたり、実践したりしていることに気が付くことがありました」

構成の開設をする市谷さん

”プロジェクト・コミュニティ”

市谷さん「プロジェクト・コミュニティはスライドの方々(スライドp.13、下記図、参照)です。

スライドp.13より

スライドの左から3番目のレビュアーの方がこの後ディスカッションをする予定の小田中さんです。

そして5番目が、今日のイベントにも来て頂いている沼田さんです。

ギルドワークスのメンバであり、プログラマです。

プロダクトづくりの主役はPOとプログラマ。プログラマの観点から見てもらいました。大丈夫ですよね?」

沼田さん「大丈夫です!

市谷さん「ありがとうございます!

市谷さん「今回の出版社はビー・エヌ・エヌ新社さんです。

BNNさんの本は非常に良くて、切り口が良い意味で変で、エッジが立っているというか…、
気が付いたらBNNさんの本を買っているので、私も本を出す時はよく読んでいる出版社で出したいなと思っていました。

編集者の村田さんとこのやりとりをしたのは執筆の最後の方でした」

編集の村田さんとのやりとり

”技術的解決策”

市谷さん「縦書きにしました。こういった技術書で縦書きは少ないのですが、縦書きは読み手の目の動きが重力に逆らわずに読むことができます。そこで、縦書きにしました。

次に note や Twitter を書いて、指を鍛える様にしていました。

頭の中だけで、文章を書こうと思うと大変なんです。頭の中を整理しておくことも狙って、忙しい時にもノートを欠かさずに書くことにしています。

次はレビュアーの増田さんとの対話編集者の村田さんへの説明です。

レビュアーの増田さんとのやりとりは非常に楽しくて、結構考えさせられる、痛い所を突いてくる指摘なんです。
彼とのやり取りの中で間違いなく、深みは増したと思います。

レビュアーの増田さんとは7月1日にイベントを開催していらっしゃいました
https://devlove.doorkeeper.jp/events/93088

一方で村田さんはエンジニアではないので、技術的用語は分からないのです。分かりやすく説明する中で内容が洗練されていきました。

それと、この「ざらざら」と「つるつる」にというのは、
5年くらい前に出した『リーン開発の現場』から心掛けていることです。
もちろん、『カイゼン・ジャーニー』を書くときにも心掛けていました。

最初に作った文章はざらざらしていて読みにくいので、ひたすら読み直して、修正して…そうするとつるつるの読みやすい文章になります」

制作ジャーニー

執筆と推敲は2018年12月末~2019年5月末の期間とのことです。
市谷さんのTwitterの投稿を見て当時の状況を振り返ったお話がありました。

市谷さん「執筆中は、進捗状況や心情をTwitterに投稿していました。

一番最初の投稿はこちらです。
2章を書き終えたのはすごくないですか!笑
この頃はウキウキしていました」

記念すべき最初の投稿

市谷さん「2つ目のツイートはこちらです。
この時期は結構大変でした。世の中の問題について評論家風に話すことは好きじゃないし、苦手なんです。
でもやるしかないので、このような心境でした」

2番目の投稿

市谷さん「その後の3章は楽しんで書きました。
途中で年末年始の連休が明けてからは大変でした。

仕事の脳と執筆の脳は違って、仕事の脳は「問題を収束する」執筆の脳は「概念を整理する」ことなので、性質が異なるからです」

仕事脳と執筆脳のちがい

市谷さん「4章までは約1か月で執筆しています。早いと思いませんか?笑

でも5章からはデブサミがあって準備に忙しくなって、苦しかったです。
共著じゃないので、自分の作業量がそのまま進捗に繋がるからです。

2月13日にデブサミの準備が終わって再開しましたが、書いても書いても終わりが見えなかったです」

市谷さん「これ全部独り言ですよ!笑」(スライドp.27より)

市谷さん「ようやく、5章が終わり、6章があとがき位だと思っていましたが、ラスボスは6章でした。

本を書く最大の問題はここまでで書いたことを忘れることです。

本を書いていて気付いたことを Twitter や note で書いていたのですが、2ヶ月位経っているので忘れているんです。
なので今までに書いた文章を読みながら執筆を進めていきます。
さっきも言ったように、文章を推敲して ”つるつるの状態” にしなくてはいけないので、この作業が時間を食うんです」

4月5日の市谷さんのツイート

市谷さん「4月5日に編集の人から

アジャイル開発って人間賛歌なのですね

と言われてこの本を書いていて本当に良かったと思いました。

後は4月15日に最終局面に入り、校了に向かっての修正をしました。

こんな感じで作ったのが『正しいものを正しくつくる』本になります」

この書籍のTwitterのハッシュタグは #正しいものを正しくつくる本 です。この日に紹介した市谷さんの執筆状況はこちらで見ることができます。

何が書かれているのか

市谷さん「現在のプロダクト開発は情報が足りない中で、何を作っていかなきゃいけないのかという不確実性との戦いになります。
不確実性との戦い方は、昔の要件定義みたいなものでは間に合わないんです。

1章から6章の中で、2章は割愛しても良い部分だと思うのですが、スクラムの部分を改めて話そうと思って書きました。

スクラムガイドは1回読んで終わりじゃないんです。折に触れて、帰っていくべきなんです。

自分が進んでいくとスクラムガイドへの向き合い方や受け取り方が変わります。
読み解き方が変わらないのは、こちら側の進展がないのかもしれません。
これを土台にしないとアジャイル開発の話にならないと思っています。

3章でまとめたのは、プロダクトとして形にすることで課題の発見ができ、その後の意思決定につながる意義があることです。

アジャイル開発は課題を発見して改善していく開発手法です。
それにより予定しなかったことが増えていき、進行が不安定になっていきます。
それを乗り越えていく為には、緻密な作戦が必要になります。

この章で好きなのは、”余白の戦略”の部分で、執筆時の言語化の際に自分はこういう考えでやっていたというのに気が付きました。

4章からの後半戦は違う課題を扱います。

チームではある程度やれるようになったところでもう一度、課題にぶち当たります。

アジャイル開発は二度死ぬ

POが課題にぶつかるんです。4章はこの辺がメインの部分になっています。5章では仮説検証はこういうやり方が必要というのを書いています。

仮説検証型アジャイル開発のプロセスと本書の各章を対応させるとこのような感じになります」

スライドp.32より 開発の流れと対応する章

市谷さん「実施の開発の順番に沿っていくと4章、5章の仮説検証フェーズは2章、3章のアジャイル開発よりも先にやらないといけないのですが、実践的には現在の章の順番通りで、アジャイル開発から取り組んでいました。

何度も壁にぶち当たって何度も超えていった末に今の形になりました。

ただ、理論を大上段から伝えても受け取り手は『へー』としかならないので、実際の体験順で話しています」

あとがき

市谷さん「この本の結論は何かというのを出版社のBNNさんにまとめてもらったのがAmazonさんにあります。

それがいい感じなので紹介します」


プロダクトづくりにともなう不確実性を、いかに乗り越えるか?

アジャイルな探索的プロセスを精緻に言語化。

問いを立て、仮説を立て、チームととともに越境しながら前進していくための実践の手引き。

エンジニア、デザイナー、プロダクトオーナーなど、共創によるものづくりに挑むすべての人へ贈る、勇気と希望の書


市谷さん「この本を読んで、ぜひ勇気を持ってもらえたらいいなと思います」

当日のスライドのリンクはこちらです!

正しいものを正しくつくる

Q&A

後半はナビタイムジャパンの小田中さんを交えてのQ&Aでした。小田中さんは「正しいものを正しくつくる」本のレビュアーをしていた方の一人です。
当日はたくさんの質問が寄せられていましたので、ここでは一部をご紹介します。

市谷さん(画面左)と小田中さん(画面右)

小田中さん「執筆に苦労していらっしゃるところをTwitterで見ていました。

レビュアーをしていた時は横書きのPDFでした。レビュアーをしているときに、自分にとって分からない部分がありました。

これからPOをやる人にとっても分からない部分じゃないかと思っていました。

でも、 出来上がった本を見ると、相当な苦労の跡があって、自分が気になっていたことがすごく言語化されていたので、こんなに内容が変わるんだという感想と、モノづくりにとって良い本だなという感想を持ちました」

Q.本を書く中で改めて気が付いたことは?

市谷さん「余白をどう作るかですね
3つの余白があるという話があって、実践していましたが、この本を書いていて名前が付きました」

小田中さん「”調整の余白”の『広さでコミットし、深さで調節する』の話がとてもしっくりきました」

この調整余白の部分は「正しいものを正しくつくる」本の第3章、p.122から書かれています。
ここでは、コストや納期という制約を考慮しながら要求や機能をどうやってプランニングするかが書かれています。

Q.スクラムガイドを読んでも読んでもわからないですよね?

小田中さん「解釈が色々ありますし、とっつきにくい部分もあります。これらの事から『スクラムは難しそう』ということになるのですが、解説書等で読んだものとスクラムガイドでは違う事が書いてあることがあります。
読んで完全に理解するのは難しいけど、傍らに置いておくガイドラインとして使います」

市谷さん「実践していることに対して、あっている部分と違う部分の差分に気が付くためにもスクラムガイドはそばにあった方がよいです」

小田中さん「『完全に理解した』と言う時は完全に理解してないじゃないですか。そういう意味でもそばに置いておくことは良いことです」

スクラムガイドhttps://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2017/2017-Scrum-Guide-Japanese.pdf

Q.小田中さんは何か言いたい事はありますか?(市谷さん)

小田中さん「すごくプロダクト作りのエッセンスが詰まっていて、仮説検証の話が後に来る今の章立てがベストだと思っています。
始めてプロダクト開発をするときに、仮説検証をしようと思ってもできないと思います。皆さんもぜひ読んでみてください!」

イベント終了後のサイン会の様子

さいごに

今回のイベントでは、「正しいものを正しくつくる」本の出版イベント、ということで著者の市谷さんの執筆に関するお話と、本の中で書かれている内容についての意図やレビュアーの小田中さんの解釈についてのお話がされていました。

チームでプロダクトをつくることとは、ビジネスでプロダクトをつくることとは、「正しいものを正しくつくる」とはどういう事なのか、悩んでいらっしゃる方も数多くいらっしゃると思います。
この本にはこのような疑問に対して、とても丁寧に、わかりやすく書かれています。

私は、この本を読んだ方はきっと「明日○○をしてみよう」という気持ちになれるのではないかと思います。