イベントの様子

この記事は5月14日にコード・フォー・ジャパンさんが開催した「経産省と本気でアジャイル開発をやってみた!制度ナビPJで見えたGovTechのリアルと未来」のレポート記事です。

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このイベントは「 経済産業省 × アジャイル開発 」今、世界的にも注目の集まるGovTech(政府:Governmentと技術:Technologyを組み合わせた造語)の現場のお話が聞けるということで内容をお聞きしてきました。

開催場所は、なんと霞が関の経済産業省本館の講堂!すでに非日常感たっぷりです。ここに、平日の夜にも関わらず250人もの参加者の集まる大きなイベントとなりました。

講演前の会場。広い!

イベントのハッシュタグは #GovTechJP なので、当日の熱量を思い出したい!他の方の感想を聞きたいという方はぜひ検索してみてくださいね。

今回の記事では経済産業省中小企業庁 松原 匠さんと、ギルドワークス株式会社 代表取締役 市谷 聡啓さんが講演した ”制度ナビプロジェクト” について触れていきたいと思います。

今回、開発側のギルドワークス市谷さんのポジションはアジャイル開発チームのマネジメント、スクラムマスター、プロダクトオーナー支援をされていました。

プロジェクト中の市谷さんのポジション

一つのプロジェクトにおける発注側と受注側の両方からの意見が聞ける機会はなかなかレアですよね!

 

当日の発表内容はかなり濃いので、ご興味のある方はリンク先のSlideShareも見てみてくださいね。

 

”制度ナビ”PJ紹介&デモンストレーション

アジャイルは素晴らしいけど、行政自体が変わらないとだめだ。

松原さん

はじめに

松原さん「私はあまりアジャイルなどには詳しくなくて、今回初めてこのプロジェクトに参加しました。こういう素人がこういうプロジェクトに入って、どんなことを考えて、どういう問題意識を感じたのかお話しできればと思います。」

”制度ナビ”とは

松原さん「補助金などの情報を適時適切に取得できるためのアプリです。なぜ、制度ナビを作ったのかというと「中小企業庁の職員でも適切な支援制度を探せる気がしなかったから」です」

欲しい情報を探しにくい問題

アジャイル開発との出会い

松原さん「これらのことから、全くユーザ目線になっていないので、どうしたらよいのかと思っていたところ、 ”アジャイル開発” という言葉を耳にしました。

「アジャイル開発ってすごいんだよ!」「じゃあこれをやれば何か解決するのかな?」

と思い、プロジェクトは始まりました。

僕がプロジェクトに入った結論から言うと

 

アジャイルは素晴らしい。

でも行政が変わらないとダメ

 

という風に思いました」

”制度ナビ”のデモンストレーション

松原さん「じっさいに”制度ナビ”にアクセスをしてご自身で触ってみてください」

制度ナビのページ

松原さん「一番強調したいのは、プッシュ通知の所ですね。

補助金は募集が1か月くらいで終了してしまうし、メールは1日に100通くらい来るので、見逃してしまうんです。なのでプッシュ通知だと埋もれずに済みます。

また、他の人はどのような制度を利用しているのか知りたいということで、人気の支援制度ランキングを設けました。

自分の住んでいる地域(東京であれば東京の中小企業)の人がどんな支援策を見ているのかというのランキングです。

補助金や支援策というのは、

「東京都だとこの補助金だよね」、「この規模ならこれだよね」

というのが大体決まっているのですが、初めての人はそこが分からないので、ランキングをみせることでアクセスのしやすさを高めました」

 

…とのことです。他にも”制度ナビ”についてのこだわりポイントを力説 されていました。私(筆者)が今までに聞いた公共のシステム担当者のお話の中で、最も熱量のある説明という様に感じました。となると実際にどのようにプロジェクトを進めたのかが気になりますね!

 

実際の開発では…

松原さん「ユーザテストでは「使いやすそう」、「UIも今どきな感じ」という様な評価を頂いた部分もありました。

確かにアジャイル開発は素晴らしかったです。

例えば、インセプションデッキで方向性がぶれないようにしました。

ユーザーインタビューによって、同時に改善するポイントも頂いて、ユーザテストから気が付くことも多かったです。

スプリント開発をしたことで、一つの機能に対してチームで深い理解をすることができてUIの精度も上がりました。」

 

それでも発生した3つの制度問題

松原さん「一方で、制度自体に3つの問題がありました」

①定義の問題

まず、中小企業の定義が制度で違いました。創業者、業種、「先進的」等の単語が並んでいて、自分は本当に中小企業なのかわからないんです。

②補助金リテラシー問題

補助金の交付要綱が分厚すぎるんです。80pあってとても読み切れませんし、ルールも複雑で細かく決まっています。そのうえ毎年変わるんです。自分が対象になると確信できないという問題があります。

③データ問題

アプリ実証に使えるデータが無かったんです。集めようと思ってもバラバラだったり、そもそも役所が委託をしていて手元になかったんです。でも、「しっかりデータがあればそもそも検索すらしなくてもぴったりな制度が提案できるのではないか?」と思いました。

行政自体の越境

松原さん「アジャイルは確かに素晴らしかったのですが、今の3つの問題がある様に行政自体が、なんなら制度自体も変わらないといけない部分があると思いました。

じゃあどうやって変わるのかというと、精神論にはなってしまいますが、 行政の担当者がそれぞれが意識をしていくことが大事だと思うんです。

経産省の中でもデジタルに対して無駄足を踏んでいて、今のままでもいいんじゃないかという考えが蔓延しているんです。

 

利用者側も ”制度ナビ” のユーザテストをしたときに「便利そうですね」と言っていた人が、説明会で80ページもある補助金の交付要綱を見せられても「でもまぁそんなもんですよね」と聞いていたんです。

でも「それはおかしいでしょ!」という風に思わなきゃいけないというのもあると思うんです。しっかり訴えていかなきゃ行政もできるだけやらない方向に作用していくことが多いと思うんです。

利用者がしっかり訴えていきながら、行政も変えるように仕向けていく必要があると思うんです。両方の側面から進めていくことが大事だと思うんです」

 

…との事でした。行政サービスに対して「まぁそんなもんですよね」と思う事はよくあることだと思います。

「クレーマーみたいになったらいやだなぁ」と思って、ついつい諦めてしまった経験があるのは私だけではないと思います。今後は、要望があればご要望ボックスに投稿してみて、伝えることから始めてみたいと思います。ゆくゆくは、いろんな人の気づきでもっと便利になっていけたら良いですよね。

当日の松原さんのスライドはこちら!

 

民間から見た行政のサービス開発

アジャイル開発とは、早く(少しだけ)形にできること。

市谷さん
当日の講演の様子

今回のプロジェクトの目標とポイント

市谷さん「今回のプロジェクトの目的は大きく3つで

  • ミラサポをもっと使ってもらえるようなものにしたい
  • スマホ向けに新着やその人にあった制度をPush通知をしたい
  • アジャイル開発で行きたい!

というものでした。

この「アジャイル開発で行きたい」という言葉は気をつけなければいけないポイントですね。

この言葉から関係者の中に

  • 「アジャイル開発ならいい感じのプロダクトができるはず」という暗黙的な期待
  • アジャイル開発に対する理解のばらつき

ということがきっとあるだろうということが想像できます」

「アジャイル開発で行きたい」のウラには罠が潜んでいる

市谷さん「アジャイルな開発とは、要点を簡潔に言うと

アジャイル開発 =  早く(少しだけ)形にできる

早く形作るため、そもそもたくさんのことを一気にはできません。この(少しだけ)というところにも意義があります。

はじめてのアジャイル開発
はじめてのリーンスタートアップ
はじめてのUXデザイン etc…

「はじめての」に続く言葉はなんでも良く、この 「はじめての○○○」 とつくものほど、チームや関係者の間で丁寧な期待マネジメントが必要になります。

“アジャイル開発” だけで何を作るべきかは見えてこないです。想定ユーザの問題を見立てて、その解決策としてどういうことをするのかというと、それには別の作戦が必要になります。ここが仮説検証という活動が必要ということになります」

 

仮説検証とアジャイル開発の役割

スライドのp20の図にある仮説検証とアジャイル開発を組み合わせた開発、「仮説検証型アジャイル」についてはギルドワークスさんのページで読めるので、ぜひ見てくださいね。

 

見えてきた状況と問題

市谷さん「スプリントが回り始めたところで、今回のテーマにぶち当たります。
現実が待っていました。大きく2つの問題が発生しました。

①Productの「全体感欠如」問題と
②データの境界は「組織の境界」問題

①については、そもそもシン・ミラサポという構想は、ミラサポという本体があって、その支援策を検索する我々の制度ナビと、事例を検索する事例ナビとの3つのアプリを組み合わせて1つのものを作ろうというものだったんですね。

3つのアプリを担当するチーム、環境が分かれており、その分担とその間でのスケジュール的不整合により、ユーザにとっての統一的な体験設計が事実上できない状況になってしまったんです。

②については、内容の話です。そもそも文書が国語的に難しすぎて、読み解けない。

じゃあ文書を分かりやすくしようと思ったのですが、それぞれ担当の方々がいらっしゃるうえ、そもそも支援策の内容がすべて文書化されているわけではないという難しい状況にあるんです。

こういうものを整えていくのはスケジュール的に到底不可能であるという状況でした」

 

このままで終わらない為の越境運動

市谷さん「こういう問題に対して、教科書的にどうしたら良いかは色々あります。

でも僕はそれは結果論しかないと思うんです。「これまではこうしてきました」と国家レベルで現状維持をしてきたものに対して、「行動でしめす」というのがこの状況の中では大事じゃないかと思います。

”動くもの” が残る、これはその後、残されたものに向き合うことができるということです。

きちっと向き合える宿題を残すために最後に何ができるのか?考えたのは、

 

自分たちだけで越境できないのなら、

ユーザの力を借りて、

3アプリ合同でのユーザテストをやる

 

ということでした。今まで1つ1つのアプリでやっていたのを全員集まるんです。

そうやって場づくりができれば、ユーザのリアルな反応が全員で受け止められることになります。

「こんなん使えないじゃん。」「意味わかんないじゃん。」いろんなものを返ってくる。そこで自分たちのできないところをそこで思い知るんですよ。

これがすごく大事です。体感して、振り返りをやって言語化してそれを次のバックログつなげて残す。それが次のプロジェクト、次の取り組みの後押しになるはずです。」

講演をする市谷さん

 …との事でした。動くものを残してその先の人達の宿題にする…というのはとても重要なことですよね。

なんとなくダメだったと思いつつも、反省や次への目標が無いままでは、同じことを繰り返してしまいますし、「どうせ無駄だよなぁ」という気持ちも組織やチームに生まれてしまいますよね。個人ごとではなく、チームとしての反省や振り返りをすることの大切さについて、考えるきっかけになりました。

 

当日の市谷さんのスライドはこちら!

おまけ

市谷さん「こういった、アジャイル開発でどうやるというのだけではなく
何を作るのかというところから探索的にやるというのをちょうど本にして、これが言いたかったんです笑

新しい本を書きました 

6月の中旬位に発売される予定です。名前は「正しいものを正しくつくる」です。
Amazonでもう予約ができますので、ぜひ予約してもらえると明日の希望につながると思います」

 

書籍の告知サイトはこちら!

https://beyondagile.info/

おわりに

どうでしたか?この記事では”制度ナビ”プロジェクトについて、立場の違うお二人の視点から見えたことについてをまとめました。

官民関わらず、お二人の話を聞いて「似たような経験があるなぁ」「自分もこうだったなぁ」と思った方もいるのではないでしょうか。

お二人のように、チームとしての熱量をキープしながら、ビジネスとして成功する(利用される)プロジェクトを進められたら素敵ですよね。