この記事は8月25日に株式会社 リクルートマネジメントソリューションズ さんのご協力の下で開催された「”対話”で駆動する組織開発とアジャイル開発」のレポート記事です。
このイベント詳細ページによると、
・一人ひとりの個性と内面に向き合う新しい組織マネジメントを支援する INSIDES
・正解のないプロダクト開発を「正しいものを正しくつくれているか?」という問いで切り開く 仮説検証型アジャイル開発
を具体的な両輪として、両者の共通性 「対話」 をテーマとして開きます。
との事で開催されたイベントでした。
イベントの構成は
①『 共通するキーワード、「対話」とは何か』
リクルートマネジメントソリューションズ 山下さん
②『“対話”で駆動する組織開発』
リクルートマネジメントソリューションズ 荒金さん
③『“対話”で駆動する仮説検証型アジャイル開発』
ギルドワークス 市谷さん
④『不確実な状況下で、なぜ“対話”の実践が見直されているのか』
リクルートマネジメントソリューションズ 山下さん 荒金さん
ギルドワークス 市谷さん 金さん
の4部構成で、④は談話形式で、INSIDESの開発を振り返っていらっしゃいました。
INSIDESはリクルートマネジメントソリューションズさんの提供する組織マネジメントの支援サービスです。詳細は②、③の講演で紹介されています。
共通するキーワード、「対話」とは何か
対話とは、相手への単なる同調とは異なる、新たなものの見方の獲得です。
山下さん
最初は今回のイベントのキーワードである、「対話」の定義について、リクルートマネジメントソリューションズの山下さんが講演されました。
山下さん「最初に、このイベントでの”対話”についての定義をお話します。
”対話”というのは単なる”会話”の事ではありません。
対話とは同じものを見ていても、それぞれの捉え方に異なる部分があることを認めることから始まります。
たとえばある一つの問題が発生した時に”機会”ととらえる人もいれば、”面倒くさいな”と思う人もいます。
一対一で話すだけでなく、それぞれの捉え方の背景を相互に取り入れあうことで、双方が同じ状況でも以前とは異なる角度で物事をとらえられるようになる事のことです。
対話は相手への単なる同調とは異なる、新たなものの見方の獲得です」
“対話”で駆動する組織開発
相手の立場に身を置くことで、新たに見えてくる世界がある
荒金さん
次は、組織のマネジメントについて、リクルートマネジメントソリューションズの荒金さんが講演されました。
コミュニケーション不全とその原因
荒金さん「巷にはコミュニケーション不全が引き起こす様々な問題があふれています。
原因の一つは、世の中の変化に伴う、メンバーの多様化です。
近年では、”大卒男性” だけではない会社、”オフィスに毎日通う正社員” 以外の働き方、ワークライフバランスの重視やグローバル化が進んだことで価値観も多様化しています。メンバーの多様化がコミュニケーションのかけ違いやすれ違いを引き起こしています。
また、深刻な原因としては職場コミュニケーションの希薄化があります。
働き方改革の影響で”早く帰る”ことが一つの要因です。
早く帰ることは良いことですが、仕事時間が短くなった分、忙しくなったので世間話や無駄話等のみえないコミュニケーションが減少しました。
これらのコミュニケーションのすれ違いはマクロな問題である、安定的な事業運営や企業経営そのものまでも脅かすようになってきています」
本音と建前のギャップ
荒金さん「上層部もコミュニケーション不全を深刻に見て、あわてて1 on 1を導入してもただの”会話”にしかならず、上司が「大丈夫?」部下も「はい。大丈夫です」しか言っていないので本音が見えてきません。
正しく仕事の報告をして組織が問題なく進められるのであれば困りませんが、現実はそううまくはいきませんよね。
意見が無い根底には「分かってくれない人には言っても仕方がない」という本音があります。
会社の方針に共感でき、自分の想いも持てると意見が出てきます。
分かってくれる相手には「この人なら困ったことを正直に打ち明けられる」と腹を割って話してくれます。
これにはコツがあって、現状への具体的な意見や不満を察知して、人柄やその人の喜怒哀楽をよく押さえておくことです。
でも上司目線では「自分では見ている」と思っているんです。
その背景には、この人は成績出ているし大丈夫だろう。とか俺はこう思うから、みんなも同じだろうという思い込みがあり、実際に部下が思っていることとギャップがあります。
INSIDESはこれらのギャップを解消するサービスです!
上司の方が「そんな風に思っていたのか」、「自分と相手はこんなにとらえ方が違うのか」ということに気が付くことができます。
また、INSIDESでは組織メンバーマネジメントに悩む現場マネージャーに対し、一人ひとりの個性と内面をとらえたコミュニケーションの為のレポートを作って専門家がアドバイスをします」
INSIDESの実演
荒金さん「INSIDESはメンバーのワーク・メンタリティをネガティブ・ポジティブで表現し、その人がどのようなコミュニケーションを好むのかを分析します。
上司の期待と本人の不満のバランスが合っていない場合には離職・休職につながるので、気をつけなければいけない部分です。
INSIDESは、その人がどういうタイプか分析をします。”解決する”のではなく、上司と部下で”対話をする”為の第一歩となるアドバイスを行います。
さらに、アドバイザーには結果に対して思ったことを質問することができます。
コミュニケーションのかけ違いを可視化するのがINSIDESのサービスです」
“対話”で駆動する仮説検証型アジャイル開発
市谷さん「INSIDESは我々も携わらせて頂きました。今年度のリニューアル開発を一緒にやらせていただきました。
リクルートマネジメントソリューションズさんが使う”対話”という言葉が何を意味しているのかを考えると私がよく使う
越境
と同じではないか?と思いました。そこで、
”越境”で駆動するアジャイル開発の話をしていきたいと思います
高まるプロダクト開発の多様性
市谷さん「 ギルドワークスは「正しいものを正しくつくる」というのを昔から大切にしています。
内容は INSIDES を含めてソフトウェア開発をやっています。
やり方は後で、少し解説しますが、仮説検証型のアジャイルでやっています。
このソフトウェア開発という言葉は幅の広い言葉で、一言で言ってもSoR、SoE…もっと細かく言うと、子供の写真共有アプリ、ある所では事務所の請求書管理、婚活のマッチングサービスや金融の決済サービス、VR、IoT …色々あります。
それぞれのプロダクトに対して期待されていることも多種多様で、これが同じソフトウェア開発なのか?というのは当てはまらないという気がしています。
このプロダクト開発の多様性はプロダクト自体もそうですが、
プロダクトを作る為の技術にも多様性があります。様々なツールや環境、サービスがあって、同じ機能でも実装方法は様々あります。
また、プロダクトをつくる人間にも多様性があります。働き方もフリーランスやリモート、複業・副業等も珍しくはありません。
これらの多様性はギルドワークスを運用している5年間だけでも様々あると感じます」
パイプライン思考とチーム思考
市谷さん「プロダクト開発の思考の分類の一つに、パイプライン思考とチーム思考があります。
パイプライン思考は一つの手法、一人の理解で戦うもので、
これは最初から断片をつないで、全体となす考え方です。
従来型のプロダクト開発みたいに、役割を定義して、個別最適をして、効率的な伝言で戦うものです。
これに対して、チーム思考があります。
異なる経験や得意技に基づく、相互作用を中心に置いて、即応、即興、重層の度合いを高めるものです。
多様性を受け入れて作っていく上では、チーム思考で適応してかないと結果を出すのが難しい状況になっているなと感じます」
POの民主化
市谷さん「アジャイルでプロダクト開発を行ったとしても、プロダクトオーナーワールドと開発チームワールドで分けていたら、それはパイプライン思考と変わりません。
ではどうすれば良いのかというと、
プロダクトオーナーを民主化
していく方向にプロダクト開発を進めていくのが良いと思っています。
何を作っていくかの理解を深めていくのには、仮説を立てて検証していくことが中心になると思っています。
プロダクトとしてどうあるべきなのかの”基準”をチームの多様性でもって磨いて作っていくことが大事だと思っています。
もちろん、チームを引っ張っていく人も必要ですが、チームみんなで進めていくことが重要だと思っています。
この基準は、仮説キャンバスみたいな形で検証結果と学びをチームで共同所有します。
最初はアナログにつくることが多いですが、更新とか共有がしにくいので、Guild Hubというデジタルプロダクトを作っています。
今後は「役割による調整」から「仮説検証による学びを中心とした”ともにつくる”」に変わっていくと思っています」
仮説検証型のアジャイル開発とは
市谷さん「詳細は「正しいものを正しくつくる」本を読んでいただきたいのですが、今日は3つ話したいと思います」
① 未検証機能の優先を落とす
市谷さん「事前の見立てとして、関係者が目玉機能だと捉えていても、検証が不足していればいきなりは着手しないことです。
INSIDESとの関わりは、そもそも目玉機能のUI設計からスタートしました。そして、関係者間で方向性Fixするところまで行ったのですが結果的に、検証が足りていないということで、この目玉機能の実装を見送りました。」
② PO、運用、開発の共同
市谷さん「いくら企画や経営層とPS Fitしていても運用できなければ用をなせないので、最初の段階から運用チームを巻き込んでいきます。
仮説の検証においてはユーザの反応がどうなのかはもちろん大事です。ですが、実際にビジネスでやっていくにはそれだけでは足りなくて、いかにアイデアが良くてもちゃんとそれが運用できるかという観点が非常に重要になります。
このINSIDESについても、既存の運用に課題があると聞いていたので、最初のスプリントから参加してもらっていました。
運用チームはユーザと向き合っている方なので、言ってみれば代理ユーザになります。機能の議論に、ユーザが参加しているようなもので、開発を進めるうえでかなり参考になりました」
③ 余白の戦略 + 背骨駆動開発
市谷さん「これはリクルートマネジメントソリューションズの方にもあんまり話していなかった部分です。
PO、運用、開発チームにとって初めてのタッグで、アジャイルに挑戦して、既存の運用と並行して行う上に、適時要望も上がってくる…プロジェクトへの期待は高いものです。ですから、ミッションとしては、”負けられない戦い”です。
そのような場合にはプロジェクトの確実性を高めるために ”余白” をつくり出すことが重要です。
ここでの余白はプロダクト・バックログをプロダクトに落とし込む段階でFBを反映する時間や余力の事を指します。
この余白は大きく3種類あります。詳細は「正しいものを正しくつくる」本を読んでください。
今回のINSIDESのプロジェクトでは調整の余白、期間の余白、受け入れの余白の3つの余白を全部調整しました。そして、結果的には全ての余白を使い切って、リニューアル・ローンチに間に合わせました。
余白を生み出す作戦として、背骨駆動開発を取りました。背骨駆動開発とは、いろんなバックログを手当たり次第に作っていくのではなく、絶対に必要な機能、プロダクトの背骨にあたるような機能を先に作って、その後に付加価値となるお肉的機能を張り付けて作っていく開発方法です。
開発をする上で、プロダクトの作り方についての基準(プロセス、設計、方針)が無いと検討と選択に時間がかかります。だから背骨を先行して決めて、多くのバックログをつくるときにはムダに迷わなくて済むようにします。
この背骨駆動開発をする為の、フォーメーションの工夫があります。
背骨を作るのに専念するメンバを作って、他のメンバはプロダクトづくりの前提となる背骨に依って作っていくフォーメーションを取ります。
背骨ができたら、チームの編成を変えて、背骨を作る人が疲弊しないように、またチームワークが崩壊しないようにフォーメーションを組みなおします。
これを私は雁行陣開発と呼んでいます。」
雁行陣開発についての詳細はこちらのスライドでも紹介されています。
プロダクトチームは分断された状態から始まる
市谷さん「たいてい、プロダクトチームは分断された状態から始まります。
それぞれが良いと思うものを作っても考えていることは違うので、ズレることがあります。
なので、境界を無くして、開発チームも運用チームもお互いに絡みながらやっていこうという姿勢、すなわち越境が問われることになります。
”越境” とは状況を変える為にこれまでおいてきた前提や役割を自ら超えていく行動の事です。つまり、
役割にとらわれずにやっていく
事です。
でも、それに気をつけてばやっていけばいいじゃんで、できるほど「これまでこうしてきた」バイアスは突破できるものではありません。一つの支えとして、自分たちに問いかけることをします。その問いは、例えば
我々は何をする者たちなのか
ということを考えることだと思います」
不確実な状況下で、なぜ“対話”の実践が見直されているのか
ここからはリクルートマネジメントソリューションズさんとギルドワークスのINSIDES開発チームのQ&Aセッションになります。ここでは当日の質問をいくつかピックアップしてご紹介いたします。
テーマ1 発表を終えての質問、感想
金さん(GW)「RMSさんが苦労してきたところは何でしょうか?」
荒金さん(RMS)「難しいですね。リクルートの立上げメンバは心理学系の人たちなので、 「こういうタイプの人はこういうことを考えがち」というのを分析する、 ”人の心”をとらえていく事業をずっとやっています。実際に人と触れて、得られた知を共有し、積み重ねてチューニングしていくところが難しいです。」
山下さん(RMS)「今までは、企業の人事向けのサービスでしたが、これは現場のマネージャー向けなので、すごく細かいのではなくパッと見て分かりやすくすることに注力しました。あとは悩みや問題に対して答えを教えるんじゃなくて、あくまでもコミュニケーションの支援をする為に入りすぎにブレーキをかけるところです。」
山下さん(RMS)「GWさんのINSIDESプロジェクトで得られた学びは何でしょうか?」
市谷さん(GW)「背骨駆動開発や雁行陣開発でやっていこうという事に気が付いたのはこのプロジェクトです。実際には問題を乗り越えるために取った工夫があり、それを後から振り返ってもっともらしく名前付けしています笑」
山下さん(RMS)「昔からやっていましたよ。みたいな雰囲気でしたが、INSIDESで検証されていたんですね!」
市谷さん(GW)「直面する問題は様々なので、その都度我々もやり方を色々考えたり、研究したりしながらやっています」
テーマ2 INSIDESの開発
市谷さん(GW)「開発チームの方は金さんに率先してもらっていました。金さんの苦労は何でしょうか?」
金さん(GW)「プロダクトの要件をまとめていくために集まったものの、議論がまとまらないところですね。良く言えば、メンバがそれぞれ熱い想いがあってプロダクトを作ろうとしているけど、悪く言えば個々の想いが強すぎて要件がまとまらなかったです。
あれもやらなきゃ、これもやらなきゃと思っても全部はできないので、難しい判断をして切らなきゃいけないのですが、これを結構山下さんにばっさばっさと切ってもらったので余白の戦略ができました。」
山下さん(RMS)「断捨離ですね(笑)」
テーマ3 「対話」とは
荒金さん(RMS)「ずっとお話を聞きながら思っていたことなのですが、不確実性の強いことというのは、最初にわからないんですね。溝を渡ってから「ああ。これが不確実性だったのか」と思うことがありました。
対話をしようと思ってできることではなく、相手の事を見ようとしながら進めていくことが結果的に対話になっていくということを感じながら聞いていました」
市谷さん(GW)「そうですね。できてるものに対しての話の中でRMSのお二人の意見がぶつかって、こちらがドキドキする場面もありました。 荒金さんが全て決定するのではなく、みんなで意見をぶつけて作っていっていたのが印象的で、こういうプロジェクトは珍しいと感じていました」
山下さん(RMS)「最初の ”対話” の説明の部分では、人間 対 人間 としてお話をしましたが、もっと組織 対 世間 や、部署 対 部署 等も ”対話” で、人間だけでなくもっと広い部分でも行います。
我々も固定概念にとらわれていた中で、他の視点ではどうなの?とお互いに突っ込んでいるような感じでした」
参加者からの質問
Q.1 on 1の時にマネージャーが聞き忘れていると思っていることを教えてください。
荒金さん「INSIDESを使ってください!言いたいところですが、呼び水になる様な質問の引き出しを持つと良いと思います。
たとえば、「B型っぽい」、「長男っぽい」みたいな引き出しをたくさん持って、「こういうことある?」みたいな聞き出し方をして共通認識を図るんです」
Q.相手のわからない部分を作っていくことも大事だと思っています。”越境” と”領空侵犯” のバランスについてはどう考えていますか?
荒金さん「とても大事な話ですね。心を蝕んでしまう話でもあるので、「マネジメントとしてこれをやっている」という線引きが大事です。例えば、距離が近すぎて、休日に部下のLINEを既読無視してどうの…みたいになってしまうと息苦しいので、あくまで仕事に対して集中して取り組んで頂く為に知っておくという線引きは必要です」
おわりに
いかがでしたか?
今回のイベントでは組織マネジメントとして”対話”を支援するサービス、INSIDESの開発と、チーム・組織マネジメントについてお話がされていました。
私は、プロダクトをより良くしたいという想いや職場やチームの環境を良くしたいという想いは同じなのにすれ違ってしまう…という悩みに対して、INSIDESのサービスや「正しいものを正しくつくる」本はより良い方向を知る一つのガイドになるのではないかと感じました。
おまけ
お話の中に出てきた「INSIDES」のリンクと「正しいものを正しくつくる」本のリンクはこちらにあります。